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甲府地方裁判所 昭和23年(行)33号 判決

原告 三枝団吉

被告 山梨県農地委員会

一、主  文

被告山梨県農地委員会が昭和二十三年九月二十日、別紙第一目録記載の(1)乃至(7)の土地及び同(8)の土地に対する買収計画に関し原告の訴願を棄却した各裁決は右目録中(3)(4)(8)の土地についてこれを取り消し、その余の土地については一反八畝十二歩を超える限度でこれを取り消す。原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告山梨県農地委員会が昭和二十三年九月二十日別紙第一目録記載の(1)乃至(7)の土地及び同(8)の土地に対する買収計画に関し原告の訴願を棄却した各裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として陳述した事実の要旨は次のとおりである。

「一、山梨県東山梨郡諏訪町農地委員会は昭和二十三年六月九日別紙第一目録記載の(1)乃至(7)の土地につき自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第五項第一号に該当する農地として買収計画を樹立し、これを公告の上同月十日より同月二十一日まで縦覧に供したので、原告は同月二十一日これに対し異議の申立をしたが、同年七月九日却下された。そこで同月二十三日更に被告山梨県農地委員会に訴願したところ、同年九月二十日右訴願を棄却する旨の裁決がなされ、原告は同年十二月十一日右裁決書の送達を受けた。然るところその間諏訪町農地委員会は更に昭和二十三年七月九日別紙第一目録記載の(8)の土地につき同じ理由で買収計画を樹立し、これを公告の上同月十九日より同月二十九日まで縦覧に供したので、原告は同月二十九日これに対し異議の申立をしたが、同年八月十一日却下された。よつて原告は更に同月二十三日被告山梨県農地委員会に訴願したところ、同年九月二十日右訴願を棄却する旨の裁決がなされ、原告は同年十二月五日右裁決書の送達を受けた。

二、然しながら右の買収計画には次のような違法がある。

(一)(イ)  諏訪町室伏極楽寺二百八十六番畑五畝二歩(別紙第一目録の(5)の土地)は買収計画当時より一部菜園として利用されているが、その他の大部分は或いは栗林であり、或いは耕作されておらず而もこの土地には原告家の飲用兼洗濯用水路が貫流して居つて、農地というべきでない。

(ロ)  同所二百九十七番の二畑二畝二十二歩(前記目録の(4)の土地)には樹齢約五十年以上の栗の大木一本、桐三本、あまんどう三本、樹齢十五年位の栗二本、胡桃一本が散生し、樹林地帯で農耕に適さない土地であるから、農地ではない。

(ハ)  同所二百九十六番の二畑二畝七歩(前記目録の(3)の土地)には樹齢約十五、六年の桐六本、梅六本があり、耕作に供されていない土地であるから、農地ではない。

(ニ)  同所三百五番の二畑六畝八歩前記目録の(8)の土地)には樹齢十五、六年位の栗十五、六本の間に、桐の切口から約三年を経た若木が出ているもの十五、六本あり、もともと桐と栗の混植地帯で、農地ではない。

(ホ)  諏訪町室伏刷毛前百四十番宅地(現況畑)二畝三歩(前記目録の(1)の土地)は樹齢約六、七十年を経た檜一本外栗一本、柿三本が生育して居り、農地というのは当らない。

(ヘ)  諏訪町室伏西畑五百六十五番畑一反二十八歩(前記目録の(2)の土地)は栗林であり、耕作の目的に供せられていないから、農地ではない。

従つてこれらの土地を農地として買収計画に編入したのは違法といわなくてはならない。

(二)  諏訪町室伏御堂後三百八十番田(現況畑)二畝八歩(前記目録の(6)の土地)及び同所三百八十一番田(現況畑)二畝十六歩(前記目録の(7)の土地)は桑畑であり、桑の生育状況も周囲の桑畑と比べて遜色なく、その経営は不適正又は粗放といわれるものでない。従つてこの両土地につき自創法第三条第五項第一号に該当する、不適正又は粗放耕作地として買収計画を樹立したのは違法である。

(三)  以上の主張が理由ないとしても、原告は別紙第二目録記載の土地合計一反九畝十歩を昭和二十二年六月中二男剛吉に、別紙第三目録甲記載の土地合計四畝十六歩を昭和二十年八月中、同目録乙記載の土地合計九畝十六歩を昭和二十二年六月中いずれも三男浩吉に、それぞれ無償で貸与し、同人等において使用貸借上の権利に基いて現に右各土地につき耕作の業務を営んで居り、しかも二男剛吉、三男浩吉はともに昭和二十年八月頃より原告と別世帯を営んでいるのであるから、右第二、第三目録記載の各土地合計三反三畝十二歩は小作地であつて、原告の自作地ということはできない。

然るに諏訪町農地委員会は右第二、第三目録記載の土地合計三反三畝十二歩をも原告の自作地に含め、原告の自作地を二町四反四畝五歩(原告と同一世帯にある長男住吉の所有分も含む)としてその中三反四畝五歩が山梨県における自創法第三条第一項第三号に定める面積である二町一反を超える面積の自作地であると認め、別紙第一目録記載の土地三反四畝四歩につき買収計画を定めたのであるが、本件買収計画樹立当時における原告の自作地は前記のとおり二男剛吉、三男浩吉に貸与した小作地合計三反三畝十二歩を差引いた二町一反二十三歩に過ぎず、自創法第三条第五項第一号に基き買収計画に編入し得る自作地はないのであるから、本件買収計画は違法という外はない。

しかも二男剛吉、三男浩吉はいずれも右第二、第三目録記載の土地につき、昭和二十三年三月一日以来三回に亘り諏訪町農地委員会に買収の申請をしているのであるから、同委員会は同人等のために右の土地を買収すべきであるのに、右買収の申請を一向に取り上げず、剛吉、浩吉両名の耕作権を否定し、いずれも原告の自作地として本件買収を敢行したのは、同人等の耕作権につき差別的な取扱いをなすものであり、憲法第十四条、第二十九条に違反するといわざるを得ない。

以上のとおり本件買収計画は違法であるのに、これを容認して原告の訴願を棄却した被告山梨県農地委員会の裁決も違法であつて取消を免れないのである。

被告の主張するように原告が右第二、第三目録記載の土地をそれぞれ二男剛吉、三男浩吉に貸与するに当り、農地調整法第四条に定める諏訪町農地委員会の承認を受けていないことは認める。」

原告代理人は以上のように述べた。(立証省略)

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、

「原告の主張する事実中、山梨県東山梨郡諏訪町農地委員会が別紙第一目録記載の各土地につき自創法第三条第五項第一号に該当する農地として原告の主張するように二回に亘り買収計画を樹立し、公告縦覧に付したところ、それぞれ原告の主張するような経過で異議訴願の手続がとられ、訴願棄却の裁決書がそれぞれ原告主張の日原告に送達されたこと、原告の主張するように本件買収計画樹立当時原告の自作地を二町四反四畝五歩(原告と同一世帯にある長男住吉所有分をも含む)として、その中三反四畝五歩を自創法第三条第一項第三号に定める面積を超える面積の自作地と認めて本件買収計画を樹立したこと及び原告の二男剛吉、三男浩吉が昭和二十年八月頃より原告と別世帯を営んでいることは認めるが、原告の二男剛吉及び三男浩吉から、諏訪町農地委員会に対し、昭和二十三年三月から三回に亘り、原告主張のような農地買収の申請がなされたということは知らない。その他の原告主張事実は否認する。

原告は諏訪町室伏極楽寺第二百八十六番、第二百九十六番の二、第二百九十七番の二、三百五番の二、室伏刷毛前第百四十番の土地は栗、柿、梅、又は桐の木等があり耕作の目的に供せられていないから農地でないというのであるが、農地の周囲や隅に梅柿栗等があるのは農村の通常の事例であり、そのために農地の性質を変えるものではない。

又原告は室伏西畑第五百六十五番の土地は栗林であつて農地でないというが、右土地に生立する栗の木たるやもともと自然生のものでなく植栽された果樹であり、肥培管理の対象となつているものである。従つて、仮にその管理が不十分で放任状態におかれていても、これは果樹園であつて、農地というべきである。

なお原告も当初自らこれらの各土地を農地であると認め、昭和二十二年二月中諏訪町農地委員会に対し自作地の申告をなした際、これらの土地を原告の自作地の中に含めているのであつて、右の各土地が農地でないというのは全く当らぬ主張である。

原告は又室伏御堂後第三百八十番、第三百八十一番の桑畑は作柄も良好であるからその耕作は粗放でも不適正でもなく、これを自創法第三条第五項第一号に該当する農地として買収したのは違法であるというが、同条文は、自作農でその者の営む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地のうち、保有面積を超過する部分を買収し得べきことを定めているのであり、その耕作の業務が適正であるというのは、同法第三条第六項に規定するように、自作農がその農地を効率的に耕作するのに十分な自家労力を有している場合又はこれを分割して耕作するときはその減産が必至である場合をいうのであつて、このいずれにも該当しない限り、第三条第一項第三号に定める保有面積を超える自作地はたまたまその中の個々の特定の農地が適正に耕作されていると否とを問わず買収し得るのである。従つて市町村農地委員会は自作地の買収に当り自創法第六条第四項に定める事項を勘案すれば足り、当該自作地に含まれる個々の農地の管理の適否にとらわれないものというべきであり、本件買収計画はその点においても違法ではない。

而うして原告家においては原告は既に老齢のため、長男住吉夫婦が農業の経営を担当し、嘗ては常時雇農と殆んど実質を同じくする小作代納労力を以つて補助させていたものであり、家族労力の外常時傭人労力を必要とするのであれば経営を効率的に行うに必要な自家労力を有するとはいえず、従つて現実に原告家の耕作は極めて粗放といわねばならぬ状態である。

原告は二男剛吉、三男浩吉に別紙第二、第三目録の土地を無償で貸与し、右土地は小作地であるのに、これをも原告の自作地に含めて本件買収計画樹立当時二町四反四畝五歩の自作地を有するものとして買収計画を樹立したのは違法であるというが、仮に右土地につき原告より二男剛吉、三男浩吉に対し使用貸借上の権利を設定したとしても、農地調整法第四条に定むる市町村農地委員会の承認を受けていないから、右設定行為は無効であり、諏訪町農地委員会が右土地を原告の自作地として取り扱つたのは相当である。しかも原告は昭和二十二年二月中諏訪町農地委員会に対し今次農地改革の手続として昭和二十年十一月二十三日並びに昭和二十二年二月一日現在における事実に基いて自作地の申告をなした際、自らその自作地を田三反二畝二十五歩、畑二町一反一畝十歩合計二町四反四畝五歩と記載した申告書(乙第一号証の一)を提出しておきながら、同年六月中自創法第三条第一項第三号の面積が山梨県において二町一反と定められるや、同年七月頃同委員会に対し別紙第二目録の土地合計一反九畝十歩は二男剛吉に、別紙第三目録の土地合計一反四畝二歩は三男浩吉に貸与した小作地であるとして右土地を前記二町四反四畝五歩の中から除外して改めて申告し直した事実もあり、前記のとおり二男剛吉三男浩吉に対する右貸与につき市町村農地委員会の承認を得ていないばかりでなく、剛吉、浩吉とともに食糧配給関係では消費者の取扱をうけている点を考えても、諏訪町農地委員会が原告の自作地を二町四反四畝五歩としてその中の三反四畝四歩を買収計画に編入したのは違法でないのである。」と述べた。(立証省略)

三、理  由

一、山梨県東山梨郡諏訪町農地委員会が原告主張の日に別紙第一目録記載の土地につきこれが自創法第三条第五項第一号に該当する農地として買収計画を樹立し、公告縦覧に付したところ、原告の主張するような経過で異議訴願の手続がとられ、原告の訴願を棄却する旨の裁決書がいずれも原告主張の日に原告に送達されたことは当事者間に争がない。

二、原告は先ず諏訪町室伏極楽寺第二百八十六番、同所第二百九十七番の二、同所第二百九十六番の二、同所第三百五番の二、諏訪町室伏刷毛前百四十番、同町室伏西畑五百六十五番の各土地は農地でないと主張するので、以下順次右各主張について考察を加えることとする。

(1)  諏訪町室伏極楽寺二百八十六番畑五畝二歩(別紙第一目録の(5)の土地)について、検証の結果によれば、右土地の中東側約一畝は菜園として利用されているが、その他の部分は耕作せられることなく放置されて雑草に蔽われて居り、且つ西側に三本、南側に二本いずれも境界に近く樹齢三十年位の栗が植栽され、自然の生長に委ねられていることが認められる。しかしこれらの栗の木が植栽されている事実は、これらの木が本件土地に占める位置からしても、それだけで本件土地が農地でないということはできず、証人掛本国久の証言(第二回)によれば、右土地は従前耕作の目的に供せられていたが栗の木の枝が伸び日陰地となるため耕作がなされなくなつたことが認められ、前記のように一部はなお菜園として利用されている事実から見ても、本件土地は農地であるというを相当とし、現在たまたまこれが耕作が怠られているからといつて、その農地であることの本質を失つたものということはできない。なお原告の主張するように右土地を原告家の飲用兼洗濯用水路が貫流している事実も、検証の結果により明らかであるが、これのみを以て右土地の農地である性状を変更するものではない。

(2)  同所第二百九十七番の二、畑二畝二十二歩及び第二百九十六番の二畑二畝七歩(前記目録の(4)及び(3)の土地)について、検証の結果によれば、右二百九十七番の二の土地には栗の樹齢五十年以上のもの一本、樹齢十五年位のもの三本、桐三本、あまんどう三本、胡桃一本が秩序もなく植えられて、自然の生長に委ねられているほか、その余は桑の切株があつて、放置されている。又第二百九十六番の二の土地にはいずれも十五、六年を経た桐六本、梅六本が植えられて手入れも施されず、地上には雑草が生え、耕作の目的に供せられていない(第二百九十七番の二の一隅四坪に大豆が作られているが空閑地利用の域を脱しないものと認められる)ことが認められるので、かゝる肥培管理も行われず、果樹植栽の状況からしても、果樹園とも認められない土地は、いずれも農地として取り扱うのは相当でなく、これを農地として買収計画に編入したのは違法といわざるを得ない。

(3)  同所第三百五番の二畑六畝八歩(前記目録の(8)の土地)について、成立に争のない甲第三十八号証の一、証人掛本国久の証言(第二回)並びに検証の結果によれば、この土地はもと三枝某の屋敷跡地であり、家屋取毀しの後石が多く耕作に適しないので桐の木と栗の木とを混植し、桐の木は生長して伐採しその切株から現在も三年位経た若木が十五、六本生長していることが認められ、その現況から果樹園とも認められず、云わば植林地に属するものといい得るから、かゝる土地を農地として取り扱うのは相当でなく、これを農地として買収計画を樹立したのは違法であるというべきである。

(4)  同所室伏刷毛前第百四十番宅地二畝三歩(前記目録の(1)の土地)について、検証の結果によれば、右土地の西南部に檜一本、北寄りに栗一本、北側西側の境界附近に柿が合計三本あることが認められるが、これらの樹木の存在することだけで右土地が農地でないということはできず、却つて右検証の結果及び証人掛本国久の証言(第二回)によれば右土地は現に、耕作の目的に供せられていることが明らかであり、これを農地でないという原告の主張は理由がない。

(5)  同町室伏西畑第五百六十五番畑一反二十八歩(前記目録の(2)の土地)について、証人掛本国久の証言(第二回)及び検証の結果によれば、右土地は以前農耕地であつたが、その後栗四十数本が右土地全面に亘り整然と一定間隔を以て植栽され、樹齢は既に十五、六年に及び、毎年三十貫位の収穫があり、現在施肥も手入れも行われていないが、肥培管理が十分ならば百貫以上の収穫が見込まれることが認められ、かゝる土地は現況果樹園といつて差支えなく、たまたま現在経営管理が粗放であるため、収穫が十分でないとしても、これを農地でないということはできず、原告の主張は採用し難い。

以上説示したとおり、室伏極楽寺二百九十六番の二畑二畝七歩、同所二百九十七番の二畑二畝二十二歩及び同所三百五番の二畑六畝八歩(前記目録の(3)(4)及び(8))は農地でないことが認められ、この両地を原告の自作農地として買収計画に編入したのは違法であるというべきである。

三、次に原告は室伏御堂後第三百八十番田(現況畑)二畝八歩、同所第三百八十一番田(現況畑)二畝十八歩(前記目録の(6)、(7))は桑園であり、桑の生育状況も良好でその耕作は不適正といゝ得ないものであるから、自創法第三条第五項第一号に該当する自作地でないと主張するので考えてみるのに、検証の結果、証人武井新一、掛本国久(第二回)の各証言によれば、右二筆の土地は桑園として桑の生育も良好でその管理が適正を欠くものでないことが認められる。然しながら自創法第三条第五項第一号に自作農でその者の営む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地の面積が第一項第三号の面積を超える場合当該面積を超える面積の自作地を買収し得ることと定めていることの趣旨は、同条第六項第一号において、自作農についてその者が当該農地を効率的に耕作するに充分な自家労力を有している場合、又は当該農地を分割して耕作することによつてその生産の減退が必至であると認められる場合にその営む耕作の業務はこれを適正のものとする旨を規定していることから見ても、自作農がこのいずれにも該当しない場合にはその耕作の業務は適正でないことになり、同法第三条第一項第三号で定められる保有面積を超える自作地を買収し得るわけであつて、この場合その自作地に含まれる個々の農地の管理の適否は問わないものと解するのが相当である。

而うして証人掛本国久(第一、二回)金子国男、三枝英訓、広瀬庚、武井新一の各証言によれば、原告家では原告自身は既に老齢であつてその長男住吉夫婦が、主として耕作業務を担当し、日雇人を入れて補助させているが、自作地の面積は二町歩余に及んでいるので、労力が不足し、管理も行き届かず、耕作状況も粗雑であつて、周囲の農地は通常二毛作を行つているのに原告家では一毛作に使用しているに過ぎないことが認められ、かゝる事実関係よりすれば原告家は自家労力がその自作地を能率的に耕作するのに不足して居り、かつ、山梨県における自創法第三条第一項第三号の保有面積である二町一反を超える自作地を分割して他人に耕作させた場合にその生産が必ず減退するとは云えないから、原告の営む耕作の業務は適正でないというべきであり、右二筆の土地が二町一反を超える部分の自作地である限り、仮に右土地の管理が適正であつてもこれを買収計画に含めることは違法でないのであつて、この点に関する原告の主張は到底採用の限りでない。

四、原告は別紙第二目録記載の土地合計一反九畝十歩を昭和二十二年六月中二男剛吉に、別紙第三目録甲記載の土地を昭和二十年八月中、同目録乙記載の土地を昭和二十二年六月中いずれも三男浩吉にそれぞれ貸与し、この土地は爾来同人等の小作地であると主張するので考えてみるのに、原告の二男剛吉、三男浩吉が昭和二十年八月頃より原告と別世帯を営んでいることは当事者間に争いのないところであり、成立に争いのない甲第十号証の一、二、第十八、第十九号証、証人三枝円吉の証言により真正に成立したことが認められる甲第四、第七、第八号証並びに証人三枝円吉の証言を併せ考えると、原告は昭和二十年八月中、別紙第三目録甲の土地を三男浩吉に、昭和二十二年六月中別紙第二目録の土地を二男剛吉に、別紙第三目録乙の土地を浩吉にそれぞれ無償で貸与し、爾来同人等においてこれを耕作していることが認められる。

もつとも成立に争いのない乙第一号証の一、二、証人掛本国久(第一、二回)、金子国男、三枝英訓の各証言並びに当事者間に争いのない乙第一号証の一が昭和二十二年二月中、乙第一号証の二が同年七月中いずれも諏訪町農地委員会に提出された事実を綜合すれば、諏訪町農地委員会が農地改革のため一筆調査の方法として自作地の申告をなさしめた際、原告は昭和二十二年二月中自ら第二、第三目録の土地を自己の自作地に含めて合計二町四反四畝五歩の自作地があるとして同委員会に申告したのに、同年七月に至り、右第二、第三目録を小作地として右自作地より除外して再申告をしたことが認められるが、この事実によつてもいまだ前掲証拠に照し前記認定を覆すに足らず、その他前記認定を左右する証拠はない。

而うして農地調整法第四条、同法施行令第二条によれば、農地の耕作を目的とする使用貸借上の権利を設定し、移転し、又は取得しようとするものは命令の定めるところにより市町村農地委員会の承認を受くべきこととされ、かゝる承認を受けないでなした行為はその効力を生じないことと定められ、同法施行規則第八条においてその承認の手続が規定されているのである。

ところで右第二、第三目録の土地につき原告より二男剛吉、三男浩吉に使用貸借上の権利を設定するに当り、農地調整法所定の市町村農地委員会の承認を受けていないことは当事者間に争いがないのであるが、農地につき耕作を目的とする使用貸借上の権利の設定に市町村農地委員会の承認が要求されるに至つたのは、昭和二十一年十一月二十二日施行された昭和二十一年法律第四十二号を以つてする農地調整法の改正によつてであるから、同法施行前においてはかゝる承認を要しないといわなければならない。

然らば、原告より第三目録甲の土地につき三男浩吉に対して耕作を目的とする使用貸借上の権利を設定した行為は有効であつて、同土地は浩吉が小作している土地というべきであるが、第二目録及び第三目録乙の土地について二男剛吉、三男浩吉に対して右使用貸借上の権利を設定した行為は効力を生ずるによしなく、依然これは原告の自作地であるといわなければならない。

もつとも成立及びこれと同一内容の書面が諏訪町農地委員会に提出されたことに争いのない甲第十一、第十二、第十三号証の各一、二によれば、二男剛吉より第二目録の土地につき、三男浩吉より第三目録の土地につき、それぞれ同人等の小作地であるとして、昭和二十三年三月一日、五月二十七日、六月十七日の三回に亘り諏訪町農地委員会に対し買収の申請をしていることが認められるが、もともと農地調整法第四条の規定が設けられたのは農業生産力の維持増進を図るため飯米農家の発生を防止すると共に、農地の兼併、潰廃を抑制しようとする趣旨であり、この統制を確保するために同条の違反者に対して罰則を適用しているものと考えられる。従つて、剛吉、浩吉において右第二目録及び第三目録乙の土地に対する当該権利の取得につき農地調整法所定の手続を践んで諏訪町農地委員会の承認を受けていない限り、同人等が右第二目録、第三目録乙の土地につきこれを同人等の小作地であるとして買収を申請したとしても、同委員会がその申請を取り上げず右土地を同人等の小作地として取り扱わなかつたことは同人等の耕作権について差別的な取扱をしたものではなく、何等非難に値しないのであつて、原告が諏訪町農地委員会のかゝる処理を以つて憲法第十四条、第二十九条に違反しているという主張は採用できない。

されば第二目録甲の土地合計四畝十六歩は三男浩吉に貸与した小作地であるから、これを原告の自作地に包含させることはできず、又本件買収計画に編入された極楽寺第二百九十六番の二、第二百九十七番の二、及び第三百五番の二合計一反一畝七歩(別紙第一目録の(3)(4)及び(8)の土地)は前記のとおり農地でないから、これも原告の自作地から除外すべきであるから、買収計画樹立当時の原告の自作地は二町四反四畝五歩から右の土地合計一反五畝二十三歩を除外した二町二反八畝十二歩であるというべきであつて、山梨県における自創法第三条第一項第三号に定める面積である二町一反を超える一反八畝十二歩の面積の自作地が買収の対象となり得るに過ぎず、従つて第一目録記載の土地中(3)(4)(8)の土地を除いたその余の土地についての買収計画は一反八畝十二歩を超える限度で違法であるといわなければならない。

五、果して然りとするならば、本件買収計画は別紙第一目録記載の土地中(3)(4)(8)の土地については非農地を農地として買収に含めた違法があり、又その余の土地については買収の対象となり得る一反八畝十二歩の面積を超えた面積の土地を買収に含めた違法があるものであるから、右買収計画を容認した本件裁決も亦右の限度で違法であつて取り消さるべきものである。

よつて原告の本訴請求は別紙第一目録記載の土地の中(3)(4)(8)の土地、及びその余の土地については一反八畝十二歩を超える限度で被告山梨県農地委員会の裁決の取消を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 入山実 石田実 宮沢邦夫)

(目録省略)

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